<日常よくみられる小児外科疾患>

 大津赤十字病院 小児外科 松川泰廣

 

日常よくみられる小児外科疾患の最近の診断法、治療法を概説する。

 

(1)鼠径ヘルニア

見つけ次第手術。1歳以下嵌頓の危険大。1歳以上自然治癒なし。

(2)陰嚢水腫、精索水腫

1歳までに95%治癒。鼠径ヘルニアが合併していないか確認が大事。3、4歳で難治性のものは手術。

(3)臍ヘルニア

1歳までに95%治癒。おさえない。1歳以後は手術。

(4)停留精巣(睾丸)、遊走精巣、腹腔内精巣

1歳頃に固定術。

(5)肛門周囲膿瘍、乳児痔瘻

男児の病気。1歳までにほとんど治癒。手術不要。特別な治療不要。

(6)痔裂、肛門ポリープ(みはりいぼ)

女児の病気。7ヶ月から2歳。手術不要。便秘の治療と痔疾軟膏。

(7)先天性肥厚性幽門狭窄症

生後2週から2ヶ月の病気。エコー診断。手術する。

(8)腸重積症

生後4ヶ月から2歳。注腸整復。まれに手術。

(9)急性虫垂炎、慢性虫垂炎

4歳以後の腹痛。直腸指診が重要。ちらすことの功罪。

(10)甲状舌管嚢腫(正中頸嚢腫)

小児の頚部正中の腫瘤、膿瘍形成。炎症を治め、舌骨を含めて切除。

(11)尿道下裂

1歳頃に根治術。

(12)包茎、埋没陰茎

ほとんど自然軽快。包皮炎、埋没陰茎などは手術。あとは3歳頃希望があれば手術。

 

以上のような疾患は早めにしかるべき小児外科医にコンサルトする事が望ましい。

 

 

(1)鼠径ヘルニア

  鼠径ヘルニアはみつかりしだい手術を勧める。鼠径ヘルニアは嵌屯しやすい。嵌屯率は7%で、特に1歳以下で15%と高率である。1歳以上では嵌屯の危険は少ない。嵌屯後3、4時間で腸管の壊死の危険が生じる。1歳以下では自然治癒の傾向にあるが、嵌屯の危険が高く、1歳以上では、嵌屯の危険性は低くなるが自然治癒は少ない。したがっていずれの年齢でも見つかり次第手術をするべきである。

 手術方法は簡単である。小児期の鼠径ヘルニアは、鞘状突起の開存が原因なので、これを高位で閉鎖するのみで治癒する。成人例のように筋層を補強する必要はない。この方法は日本の小児鼠径ヘルニアの標準的術式となっている。

 男子の鼠径ヘルニア嵌屯の合併症として、腸管壊死ととともに精巣の虚血性壊死も忘れてはならない。腸管の血行障害よりも精巣の血行障害の方が早くくるともいわれ、この点でも嵌屯例は手術を急ぐ必要がある。

 <鼠径ヘルニアの嵌屯と水腫の鑑別>

 触診上、嵌屯例では陰嚢部の腫脹が鼠径部にドーンと続いている感じがある。水腫では鼠径部でくびれてころっと腫瘤を触れる。新生児では直腸指診で鑑別のつくこともある。

<女児の卵巣嵌屯>

 女児の鼠径部に非還納性のしこりを触れることがしばしばある。卵巣嵌屯である。イレウス症状はなく全身状態は良好である。卵巣が腹腔外にとびだしもどらない状態だが、腸管嵌屯のように血行障害をおこすことは少なく正確には嵌屯ヘルニア(血行障害を伴うの意)とはいわず非還納性ヘルニアという。緊急手術の必要はないがまれに捻転で壊死をおこすので早めに手術を行うこと。観察中に自然に戻ることもある。卵巣の(いわゆる)嵌屯と腸管の嵌屯の鑑別は次の3点である。まず触診。コリコリとした少し可動性をともなうしこりが卵巣嵌屯、圧痛を伴い固く動かないしこりが腸管嵌屯である。第2点。イレウスを伴わなわず全身状態が良好なのが卵巣嵌屯、イレウスを伴い全身状態が不良なのが腸管嵌屯である。第3は超音波検査である。卵巣の場合均一な充実性のエコー像を呈する。

 

(2)陰嚢水腫、精索水腫

  鼠径ヘルニアとは鞘状突起が広く長く開存し臓器が脱出するものである。陰嚢水腫、精索水腫では、全例で腹膜から小さい鞘状突起が突出し、索状物を介して水腫に連続している。この交通を通って腹水が貯留するのが水腫である。

 水腫は1歳までは自然治癒するので手術はしない。95%は自然治癒する。穿刺排液で水腫が治癒することはない。穿刺後2、3日で液がまたたまってくる。水腫に鼠径ヘルニアが合併した例では穿刺は腸管損傷の危険がある。穿刺は禁忌である。1歳以後は自然治癒の傾向はにぶる。3、4歳になり腫れを気にする場合には、社会的適応から手術を行う。鼠径ヘルニアの合併例は鼠径ヘルニアに準じて早期に手術する。

 水腫は、鞘状突起を中枢側で結紮切離する手術で治癒する。

 陰嚢水腫と精索水腫と性格が違うという説もあるが、私の臨床的観察からは解剖学的に差異はなく同等に扱うべきである考える。

 

(3)臍ヘルニア

  臍脱後2週間前後から臍ヘルニアが生ずる。3、4ヶ月は大きくなる傾向がある。この疾患は、ほとんどが自然治癒すること、鼠径ヘルニアと違い嵌屯が稀であることから治療の必要はない。寝返り、はいはいに伴い乳児の腹直筋が発達するにつれてだいたい6ヶ月までに90%治癒、1歳で95%治癒する。以前行われたばんそうこう固定は臍部皮膚のかぶれをつくり有害無益である。

 手術適応は、@1歳になっても治癒しないもの、Aヘルニア門が2cm以上のもの、B臍ヘルニア嵌屯、C臍疝痛をともなうもの(ヘルニア嚢と大網の癒着が原因)、とされる。

 <臍ヘルニアの触診の仕方>

 脱出した腸管を押し戻しながら人差指でヘルニア門の大きさを触診する。脱出した部分の大きさではなく、ヘルニア門の大きさを観察する。母親にも触らせて納得安心させることが肝要である。

 

(4)停留精巣(睾丸)、遊走精巣、腹腔内精巣

  生殖能力の保持と、精巣の癌化の点から停留精巣の手術時期を考える。精母細胞の変性が生後2年ごろからはじまり、Leydig細胞の変性が1年で始まる、といわれ、生殖能力の保持の点からは早めに手術するのがよいとされる。性ホルモンの検討からも2歳以前に手術することが望ましい。精巣の自然下降は生後2歳までにおこるといわれているが、実際には未熟児では自然下降が見られるケースがあるが、成熟児では下降はほとんど見られないようである。以上の点を考慮して、われわれは1歳前後を手術時期としている。

 10歳以上の停留精巣の癌化の率は高い。特に腹腔内精巣の癌化率は高い。精巣腫瘍の10%が停留精巣由来である。

 精巣の位置は触診と超音波所見で判定する。鼠径管外停留精巣は触診できる。これは精巣固定が容易である。鼠径管内の停留精巣は、触診できないが、超音波で描出できる。触診不能かつ超音波で描出不能となると腹腔内精巣あるいはvanishing testisである。

 手術は、鼠径管を開き鞘状突起を根部で結紮し、精巣動静脈、精索を周囲組織より分離し、精巣を陰嚢内に引き下ろし精巣皮下に固定する。あくまで、精巣を良好な部位におくことが手術の目的である。もともと精巣機能が悪いので通常の下降が起こらなかった可能性もあり、手術しても術後の精巣機能は回復するかどうかは定かではない。一般的には術後の精巣は大きさに左右差なく成長していく。

 <遊走精巣>

 精巣を陰嚢下極までひきおろせるが、普段は挙上しているものをいう。挙上の度合いにより、停留精巣に準じて手術を考える。家族には24時間のうちどれくらいの時間挙上しているのかを観察してもらう。特に両側遊走精巣の場合は、機能温存の意味から早めに手術を考える。

 <腹腔内精巣>

 精巣が触診できずかつ超音波で描出できない場合、腹腔内精巣であるが精巣が無形成であるかどちらかである。腹腔内精巣は放置できない。腹腔内精巣の診断にはMRIが有効との意見もあるが確実ではなく、ミニ開腹か、腹腔鏡で直視下に確認すべきである。

  

(5)肛門周囲膿瘍→乳児痔瘻

 男児に特有の病気。

 乳児痔瘻はほぼ次のような経過をたどる。まず肛門周囲皮膚に膿瘍が形成される。発熱をともなうこともある。ついで膿が排泄され、その穴が皮膚瘻孔となる。たいていの場合瘻孔周囲に小さな硬結をともなう。その後何度も膿瘍形成、膿排泄を繰り返しなかなか治らない。

 ほぼ全例が自然治癒する。但し治癒までの経過は長い。3ヶ月で70%が治癒するが、完治まで1年かかるものもある。

 治療は、自然経過にまかせることが原則。

 @局所の清潔を保つ。排便後の水洗いで十分。消毒や抗生剤は必要ない。入浴は普通にさせる。

 A下痢、軟便の際に悪化するので注意。早めに離乳食に移行させるのも有効。

 B膿瘍形成時には、早めに切開排膿する。強い膿瘍形成時には短期間抗生剤を使用する。

 C通院、手術は不要。

肛門部の硬結が残っているうちは再発しやすい。硬結が縮小してくると治癒は近い。

 

(6)裂肛、肛門ポリープ(見張りいぼ)

  女児に特有の病気。7ヶ月頃から2歳の間の女児に見られる。3歳以後はみられない。離乳食が確立し便が硬くなる時期に一致する。慢性便秘、硬便が原因である。12時方向、ときに6時方向の肛門皮膚のポリープ様の腫脹をきたす。外科的疾患を疑われて小児外科に紹介されることが多い。肛門を開くと裂肛が確認される。便秘、硬便、裂肛形成、痛み刺激、排便をこらえる、さらに便秘というサイクルで悪くなる。治療は痔疾軟膏を塗布しながら、下剤で排便のコントロールをする。通常1ヶ月で裂肛部分に皮膚がはれば治る。手術は不要。新生児期の肛門ポリープはウイルス性のものもみられる。

 

(7)先天性肥厚性幽門狭窄症

  生後14日目ごろからミルクの嘔吐があり、体重減少、ぐったりする、などの症状で来院する。診断は超音波検査である。以前は、腫瘤の触知、造影検査を行えとされていたが、造影検査はいらない。

 診断が確定すれば、手術。胃ゾンデを挿入し持続吸引とし、絶飲とする。脱水、低クロール性アルカローシスの有無をチェックし必要なら補正。

 手術は幽門筋切開術。術後早期からミルクをよく飲むようになる。薬剤で治るとし手術をしない方針の小児科のドクターもおられるが、長期入院などコストベネフィットの点からも手術がいい。

 

(8)腸重積症

<腸重積の好発年齢>

 腸重積は生後4ヶ月から2歳に多く、好発年齢からはずれる症例は大腸ポリープ、メッケル憩室など器質的疾患を考慮するべきである。

<腸重積注腸整復のコツ>

 注腸には空気、6倍ガストログラフィン、非常に薄いバリウム(10倍希釈)など腸管外に漏れた時により安全なものを使う。何を使うにせよ最先部に圧がかからなければ整復はおぼつかない。肛門からの漏出を防ぐことが最も大事である。大人用の2重バルーンを使用し、肛門を締めるためばんそうこうで下肢をよせるように固定する。造影剤は腸管の形態がみえる濃度で十分である。薄い方が腸管が重っても先進部の形態ががよく造影され追いやすい。ガストログラフィンはそのままの濃度では浸透圧が高く脱水をおこし危険である。6倍で等張となる。水溶性なので漏れたときに安全である。もっとも安全と思われる空気整復を推奨する施設もある。

 超音波検査では外ぬけの腫瘤エコーを呈する。また整復時に整復できたかどうかの確認に役立つ。

<注腸整復の禁忌>

一般的には

 @腹膜炎所見のあるもの

 A発症後24時間たったもの

 Bニボーのみられるもの

 Cなかなか整復できないもの、は注腸整復禁忌、手術適応とされる。

腹膜炎症状のあるものは穿孔があるわけで絶対禁忌である。A〜Cは安全域をみこした条件で緊急手術が可能な施設なら積極的な注腸整復を試みてよい。整復圧も1m水圧とされるが一時的に2m程度まであげてもよい。ほとんどの症例は注腸で整復可能で手術が必要なことは少ない。

 

(9)急性虫垂炎、慢性虫垂炎

  急性虫垂炎は4歳以上で見られ、3歳以下は稀である。年少児ほど症状、所見とも曖昧なので、4、5歳の虫垂炎の診断がもっとも難しい。この時期は見つかったときにはたいてい腹膜炎を伴っている。

虫垂炎を放置した場合の腹膜炎の合併、女子での不妊の問題なども考えると、虫垂炎でないと誤診するより虫垂炎であると誤診する方が罪が少ない。疑わしきは罰するという方針で手術を決定している。

 一般的には、発熱、CRP上昇・白血球増多など炎症所見があり、限局した右下腹部の圧痛があれば急性虫垂炎と考える。私はこれに直腸指診の重要性を強調したい。

 腹膜刺激症状(筋性防御、ブルンベルグ徴候)があれば、炎症は不可逆で、穿孔あるいはそれに近いと考え手術をおこなう。ブルンベルグ徴候は患児の主観がはいり年少児ではあてにならないので、筋性防御を優先する。手の平を腹部にあててじっくり観察すること。

 圧痛のみで腹膜刺激症状がない場合がむしろ問題である。エコーで虫垂の腫脹の見られない場合カタル性虫垂炎として、最近では手術せずに抗生剤で治療する傾向にある。しかしこの場合後述する慢性型の虫垂炎のケースも含まれるので、手術の決定は柔軟に対処すべきである。

 <直腸指診>

 重要。従来、腹膜炎、虫垂周囲膿瘍の指標とされてきたが、虫垂炎そのものの診断にきわめて重要である。直腸指診で右の片側性の圧痛があれば虫垂炎と考える。年少児では虫垂間膜が短く虫垂が盲腸の背側にもぐっていることが多い。盲腸背側に癒着した虫垂や骨盤内に落ち込んだ虫垂の虫垂炎は、腹壁からの圧痛が認められない場合があり、直腸指診でないと圧痛が確認できない。

 <虫垂炎を『ちらす』ことの功罪>

 ときに血液学的に炎症所見がなかったり、腹側からの圧痛のない虫垂炎に遭遇する。いままで虫垂炎を『ちらした』ことがないかどうか、病歴が重要である。

(症例1)10歳女児。下腹部痛で来院。右下腹部に圧痛なし。発熱もなく、白血球も 5,000 と増多がなかった。直腸指診で右側に強い圧痛があった。1年前に虫垂炎を疑われ抗生剤投与で軽快した。以後腹痛がときどきありそのたびに抗生剤投与でおさまっていた。手術で摘出された虫垂は肥厚萎縮し急性炎症所見はなかった。摘出後は腹痛発作は消失した。

(症例2)5歳男児。39度の発熱、下腹部痛で来院。白血球18,000と高度増加あり。腹部触診では下腹部に筋性防御あり。しかし右下腹部は圧痛なし。直腸指診でダグラスに圧痛を認めた。1年前に発熱、腹痛があり、虫垂炎かも知れないとのことで1ヶ月小児科に入院加療したことがある。手術で虫垂は骨盤内に入り込み回腸末端、盲腸と強い癒着をしていた。虫垂自体は肥厚はあったが強い炎症所見はなかった。

 症例1、2とも典型的な虫垂炎の所見ではない。虫垂が炎症の focus となっており、手術以後腹痛はきたさなくなった。いわゆる慢性型の虫垂炎である。ときどき急性増悪し腹痛をきたす。急性虫垂炎を抗生剤で『ちらした』場合、ほとんどが近い将来再発すると考えてよい。それもこのように非典型的な所見を呈するので注意が必要である。

 

(10)甲状舌管嚢腫(正中頸嚢腫)

  小児の頚部正中に生じる嚢腫。膿瘍を形成して発赤、疼痛にて見つかる。炎症を繰り返す。手術は、炎症を治めた上で嚢腫を舌骨を含めて咽頭基部まで切除する(シストランク法)。

 

(11)尿道下裂

  1期的に手術をおこなう施設、2期的に手術をおこなう施設がある。いずれにせよ手術は小児泌尿器外科の専門技術を持ったドクターが担当すべきである。小児泌尿器科医は全国で15名ほどしかおらず、当然、きちんとした手術のできる施設は全国でもごく限られている。我々は、兵庫県立こども病院の基準にのっとり、1歳前後を手術時期とし1期手術を行う方針をとっている。現在は兵庫県立こども病院のドクターのサポートを受けながら手術をおこなっている。

 

(12)包茎

 包皮の皮膚が短いため亀頭が脱転できないもの。皮膚が伸びてくると治癒する。ほとんど自然治癒すると考えている。5円玉の穴ほど先が見えていれば必ずめくれてくるので手術の必要なし。

 包皮炎例、短いペニスは積極的に手術。それ以外は積極的には手術を勧めず、親の希望に応じて手術している。いちおう3、4歳が手術時期だが明確な適応年齢があるわけではない。

<包皮炎>

包皮が炎症をおこし、疼痛、腫脹などを繰り返す。包茎でなくてもおこるが、包茎を伴う場合、繰り返すことが多いので手術する。

<埋没陰茎(短いペニス)>

包皮ではなくその中枢の陰茎の皮膚が短いため、亀頭を圧迫しペニスが埋もれ短く見える事がある。実際にペニスが短いわけではない。この場合も手術してペニスの圧迫を解放する必要がある。包茎と合併して2段締めになっていることもある。

 

以上

 

 

<バージョン>

この小文、病院外科診療マニュアル 医学評論社(1993年)の小児外科の項を元に改訂を加えたものである。

改訂:971107:971128:971202:

<筆者紹介>

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松川 泰廣 (Matsukawa Yasuhiro)

matu-y@mars.dti.ne.jp

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勤務先:

〒520-0046 大津市長等1−1−35 大津赤十字病院外科

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